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雑感。思いのままに。 Whatever I feel like writing, I will.
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自分の理想と世の中の意識に悩むのは理想に生きる人間なら多々あることである。その葛藤がでも人生の大きな原動力の一つになるのは否めない。それは人生に必要なのではない。必須なのだ。これを乗り越えなければならないのだ。そこで


これはマイケル・キンメルマン(Michael Kimmelman)の著したThe Undefeated(無敗)というコラムからの抜粋である。

The New York Review Of Books 
Volume 52, Number 5 March 24, 2005

カペルの内向的性格と葛藤、自身が音楽に打ち込む時に感じていたジレンマが表現された言葉の一つである。これは1952年にカペルが作曲家で友人のヴァージル・トムソン(Virgil Thomson)に書いた手紙の一部である。その当時、コンサートレパートリーにアメリカの優れた作曲家が演奏される機会が非常に少なく、また歓迎されなかった風潮(彼のマネージャも彼がアメリカの作曲家の作品の演奏には強硬に反対したという)に対して綴った彼の切実な思いである。

If we allow the present and lamentable accent on commerce and sensationalism to combine, our whole musical culture will be threatened. The situation today appears very serious and no little bit tragic. The powers that control this noble profession are making nitwits out of the large public. I, for one, am sick and tired of going along in any way with so-called public "taste." Many artists do not realize that by doing so they slowly are dying, creatively; and when artists die, so does art.

もし我々が現在の憂慮すべき商業主義とセンセーショナリズムの強調がさらに相乗効果を持つようになったらこの我々の音楽文化は危機に瀕する。現在の状況は非常に切実な物であり、ちょっとの悲劇どころではない。この業界をコントロールしている巨大な力は、一般大衆、聴衆を完全に愚弄し、無知化している。(注※)私はこの「お客様が求めているもの」と称する物に同調するなんて真っ平ごめんだ。アーティスト(芸術家)がそれに妥協していったらそのアーティストはゆっくりと創造的な死へ向かっているのだ。それに気が付いていない。そしてアーティストが死に絶えたとき、アート(芸術)も死ぬ。

(注※)nitwitだが、「無能な、馬鹿な」を意味する言葉。語源は中部ドイツ語から(niht;それにwitを足すと「No-wit」、つまり馬鹿)来ているとされてる。

カペルは中々歯に衣着せぬしゃべり方や、典型的なニューヨーカー的アグレッシブさを持っていて、それでいてものすごく内向的でもあった。繊細で傷つきやすかった。えてして、爆発的なキャラクターは繊細なものだ。ルービンスタインとの不仲のエピソードも中々面白い。

【まぁ、ルービンスタインはオレは人間として好きではない。彼の回想録My Many Yearsを読むと、そのナルシストぶりに反吐が出るくらいだ。彼の音楽も大学2年生以来、ほとんど聴いていない。映像なんかでの彼の尊大で過度にドラマチックなしゃべり方をイメージすると不機嫌になるからだ。】

彼のタウン・ホールデビューの批評は、運命の日(飛行機事故)の12日前に発刊された。その少し後にカペルはユージーン・リストというピアニストと二人で手相師に占ってもらったそうだ。するとその手相師の女性はカペルに「彗星のようなキャリアだが、30歳前に激しく散っていく(死ぬ)だろう」と言ったそうな。

コープランドは、カペルの死の時に、自作のピアノ・ファンタジーをカペルを偲んで捧げた。現存する唯一のカペルの映像の中のテレビ番組「Omnibus」のホストでカペルの友人、アリステアー・クック(Alistair Cook)はその次の週のBBCのラジオ番組、Letter from Americaの中で賛辞を述べ、

「カペルは幸せな男として死んでいった。人生の半ばに差し掛かろうとしている多数の人間達が手にすることの出来ない幸運・・・自分を全く妥協する事なく、その人生の終わりまでベストを尽くす、ということが出来た数少ない人間であった。彼の人生の終わりはその始まりと同じようであった。彼のなりたかった姿、生意気で、だが忠実な「音楽」という存在に仕える身。彼が死んだ時は金など残さなかったが、飛行機の羽が山の尾根を擦った時、彼は散っていった・・・(※2)バニアンの「巡礼者」のように・・・無敗で。

Kapell died a lucky man. For not many men come into middle age hav[ing] been fortunate enough to go through to the end without, in some forgivable way, compromising their best. He ended as he began—a cocky, humble apprentice to the master he hoped to be. He left no money, but when the wing of his plane touched that mountain, he went out like Bunyan's pilgrim—undefeated.

この様に過去の名著(ジョン・バニアン[John Bunyan]のPilgrim's Progress(「天路歴程」と訳されている)という本を例に出し、格調高く、そして友への想いを込め、そして重くならないようにその中に若干ブラックユーモアを込める、そういう欧米文化の「wit」が理解出来ないと、音楽というのは見えてこないかもしれない。ちなみに英国から清教徒がメイフラワーでアメリカに上陸したのは1620年)

カペルの想い、言葉、危惧が現実の物となっているのは、彼の死後55年経った今の世の中、マスコミ主導の横暴がまかり通り、音楽業界が「商業」として牛耳っているのを見ても明らかだろう。オレも妥協などしない。利用などされない。自分の理想を貫く。それを18歳、大学1年生の時から胸に抱き、はや20年近く。道のりは遠い。だれも開拓したがらないあぜ道。しかし、これは自分の一生をつぎ込むに相応しい人生の事業だと思う。なので、葛藤が多い険しい道だが、それを歩むオレの表情は喜びに溢れていると思う。

今日のアンサンブルコンテストを見てもそう思った。この国に本当の音楽教育を施さねば、と。そして自分の信じる音楽を奏で、そのエネルギーで聴く人にインスピレーションを与えたい。


カペル関連のコラムはこちらから読める。キンメルマンの他の著、そしてシカゴ・トリビューンの著名な批評家だったClaudia Cassidy、そして作曲家ヴァージル・トムソンなど。英文だが、ゆっくり読解されたし。

http://www.williamkapell.com/articles/

【ちなみに、まだ残っているリンクもありますが、アメリカのカペルのウェブサイトからの演奏映像のリンクは削除されています。カペル未亡人のアンナ・ルーはカペル関連の資料に対する管理が大変厳しいようで。国際ピアノアーカイブスの友人に聞きました。残っているものも時間の問題かと。】
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現在東京を基点に世界各地で活動している音楽家、トランペット奏者。自らの信念を基に、日々修行と交流に生きる。
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